雑感38 <巨泉流人生の選択>
  
  30代、40代のサラリーマン対象の最もなりたい人物は、
大橋巨泉だったという。権力者になるよりも、大富豪になるよ
りも、早目に引退して、後半生を自分の生きたいように生きる
人生を選ぼうという考えの人が増えている。日本男性は、ワー
カーホリックの会社人間が多かったが、平成不況、企業縮小
(ダウンサイジング)、企業合併(マージャー)によるリスト
ラの嵐の中で、終身雇用の夢は、幻となり、会社の為でなく、
自分と家族の為に生きる方を選ぶ人が増えている。セミリタイ
ヤを宣言して、新しい人生を歩み出す。自分の後半生は、自分
の立てた優先順位(プライオリティー)に従って行動する。
  You can’t have everything.何でも手に入れようとして
はいけない。何もかも欲しがってはいけない。余り欲張っては
いけない。
  生きる上での優先順位の第一は、健康である。特に体力の落
ちる後半生においては、最重要である。巨億の富を持っていて
も、寝たきりでは、何の為のリタイヤかわからない。その為に、
バランスのとれた食生活、運動、節酒、禁煙は、必須項目であ
る。身の方は、散歩等の日常の運動、バランスのとれた食事、
心の方は、ストレスの解放と、アップトウデイトな好奇心が、
必要である。第二は、妻(伴に歩く良きパートナー)である。
一人で過ごす後半生ほど淋しいものはない。第三は、心許せる
友人である。第四は、趣味、やりたい事である。ゴルフ釣りジャズ、読書、映画旅行、アンティーク、競馬将棋、俳句、
英語、スポーツ観戦、常にアップトウデイトな好奇心、興味を
持ち続ける事が大切である。若い頃は、趣味をできるだけ広げ
て、徐々に淘汰して、2つ3つに絞る。晩年は特に、晴耕雨読
で、体力の必要としないものも用意しておく。第五は、財政
(ファイナンシャル)で、この5つが不可欠の条件である。
財政計画は、早く始めるほど有効である。
  誰でも老いる。昔は老いて仕事から離れた人を、隠居とよん
だ。人は、若いうちは、働かなければならない。やりたくない
仕事もし、家族を養っていかねばならない。今までの日本人の
多くは、仕事こそ人生のすべてと考え、会社こそ、自分を生か
してくれる唯一の存在と考えた。昨今のように、リストラされ
たり、定年を迎えたりすると、若いうちの仕事や会社は、あく
まで人生における一つの手段で、究極の目標は、後半生の人生
と考える。前半生は、なかなか自分の思い通りにいかない。リ
タイヤ後の人生は、自分で演出できる。前半生の仕事、会社、
趣味は、後半生の準備と考える。仕事は、手段、目的は、後半
生であるという人生観である。アーリーリタイヤメント(早い
引退)をすすめる理由はここにある。
  旧日本的価値観の優先順位は、1、有名学校に入る。2、優良
企業に勤める。3、社内のヒエラルキーを登りつめる。
会社にしがみつく日本人、若くして退けば尊敬される欧米とは、
実に対照的である。
  夢のリタイヤの3条件は、1、自分達名義の住宅(できれば別
荘と二軒)2、100万ドル(2億円)の現金。3、長期的な投
資(ビジネス、証券、できれば日銭が入る前者がベター)
温暖地に持ち家を持つ事が理想的である。(ホノルル、バンクー
バー)留守中のセキリュティーが完全である事が必須条件である。
まず家を買う時に最初に考える事は、売る事である。日本人は、
終の住み家的な建て方をする。
  自分がノーチョイスでこの世に生まれてきた不条理を解決するに
は、自分は自分の思い通りに生きなければならない。物事を両面か
ら考える。サルトルカミュから実存主義を学ぶ。夏目漱石から東
洋的諦観を学ぶ。松尾芭蕉から平易に叙す事を学ぶ。自分を表現で
ものなら何でも挑戦する。禍福は糾える縄のごとし。禍福に門なし。
人間万事塞翁が馬。消耗品にならない為に、自分でマネジメントを
コントロールする。人の真似をせず、自分だけのオリジナリティー
を確立する。 
  趣味のない後半生など無きに等しい。後半生は、まさに人生の主
役になる。働く事も良い事だが、遊ぶ事も良い事である。豪快でエ
ンターテイメントのあるものを求め続ける。ジャズは、名作を繰り
返し聞く。すぐれた音楽を趣味として持った音感を有する人は、幸
福な人達である。競馬は、馬の成長を楽しむものである。情報の集
積による蓋然性により、オッズが決まる事に興味を持つ。必然性で
なく、蓋然性に魅力を感じる。血統という魔物に虜になる。競馬は、
所詮いい加減なものである。アンティークは、歴史との対話がうれ
しい。旅行するたびに、コーヒーカップを1個ずつ記念に買う。旅
行でその国の歴史と言葉を学ぶ。麻雀は、引き(肝心な時に必要な
牌を引いてくる事)の強さに尽きる。夢は自分のバンドを結成する
事である。
  成功する結婚の第一条件は、お互い相手を好きであるという事で
ある。うまくいかない時は慰め合い、うまくいった時は喜び合うパ
ートナーとなる事である。器量は老けるが、愛嬌は歳とらない。
Beauty is but skin deep.美貌は、ただ皮一重。妻とは、できる
だけ一緒にいる事が重要である。一緒にいる事が困難ならば、毎日
必ずコンタクトを取る。コンタクトとは、単なる連絡を取る事では
なく、触れる事、接触する事が大事である。言葉以上の仲直りやお
詫びの効果を持つ。お互いの領域を尊重する。趣味や、行動の中で
自分のやりたい事を相手に押し付けない。二人の共通の趣味を必ず
持つ。二両連結で何かを一緒にしている時間と、全然別の事をして
いる時間を合せ持つ。二人でとことん話し合う。二人だけにしかわ
からない秘密、隠しネタ、ジョークを持つ。来る者は、拒まず。去
る者は、追わず。友人とは、利害関係を入り込ませない。真の友人
とは、どんなに離れていても、どんな長い間会わなくても、いつで
も会いたいもので、相談事があれば、すぐ会ってあげれる人である。
お金、富を優先順位の第一位に置かない。経済的危機に直面した時
も、なんとかなると考えた楽天主義者である。健康に関しては、人
間ドックへは、34歳の時から毎年定期的に行っている。
  いつも明るく、人の役にたてる人間でありたい。情けは、人のた
めならず。怒りっぽい人や、揉め事の好きな人を避けよ。熱狂的な
信者(zealot)を避けよ。人の言う事をよく聞け。人への助言、忠
告は、注意深くせよ。賢い人には必要ないし、愚かな人は心に留め
からである。若い人には優しく、お年寄りには、同情的に、弱者に
は、寛容でありたい。成功とお金を同等と考えるな。
  転ぶな。風邪ひくな。義理を欠け。(岸信介の信条)歳をとって
からの死因、大怪我は、転倒が主な原因である。リタイヤしてから
の住む家は平屋がいい。風邪は万病の元。風邪をこじらせて、大病、
死というケースが圧倒的に多い。リタイヤしてからは、温暖な土地
が良い。早期発見、早期防衛。ビタミンB、Cを多目に摂って休息す
る。できれば主治医を持つ。無理はしない。その為に義理を欠く。
義理人情の日本では、この義理が万病の元になっている事に気ずい
ていない。風邪ひいたり、大病、死にいたったのは、義理を断れず
無理をしたからである。雨の中のゴルフ、寒さの中での花見、雪の
中での葬式は避けたい。
  正しい価値観に基ずいてどんどん義理を欠け。リタイヤ以降は、
義理の優先順位は、ずっと下がるはずである。今日はやめておこう
が、柔軟性があって良い。人生は1回きりである。どう生きるかは、
その人の問題である。日本よりずっと所得の低いニュージーランド
では、引退者が、はるかに楽しい生活を送っている。人間は引き際
を引いてからの生活の内容がその人の人生を決める。
                        鈴木誠一拝