雑感55<靖国参拝>

  平成13年8月13日午後4時過ぎ、小泉純一郎首相は、靖国神社を参拝した。
二拝二拍手一拝の神道形式ではなく一礼で参拝した。「内閣総理大臣 小泉純一郎」
と記帳し、「献花料」を事前に3万円私費で支払い、他の閣僚に呼びかけないなど、
宗教色を薄め、個人的な心情による参拝であることを強調した。行くか、やめるか、
ずらすかが国民の関心の焦点だった。靖国参拝を断行すれば、アジア近隣諸国から
反発や疑念を招き、取り止めれば、小泉首相の言行不一致の批判、そしりを受ける。
熟慮に熟慮を重ねた末に、小泉首相が公約で強く名言していた終戦記念日の8月15
日をはずし、靖国神社を前倒し参拝した。小泉首相は、「先の大戦では、アジア近隣
諸国に対しては、誤った国策にもとづく植民地支配と侵略を行い、計り知れぬ惨害と
苦痛を強いた。」お詫びをしつつも、「今日の平和と繁栄は、先の大戦で、尊い命を
犠牲にした方々の上にあり、心から敬意と感謝の誠を捧げたいと思い参拝した。」
と語った。いうまでもなく靖国神社とは、戊辰戦争、日清、日露戦争、第一次世界大戦、
第二次世界大戦の戦没者、英霊が祭られている神社である。第二次世界大戦の戦争指導
者であったA級戦犯14名が合祀されていることが問題の核心である。

  信念の人、小泉首相は、「一度言い出したら聞く耳を持たないと思われているが、口は
一つ、耳は二つで、虚心担懐に多くの人の意見に耳を傾け、13日を選んだ。」と苦渋の
決断をした。なぜ13日への日程変更かの問題は、15日は、終戦記念日で、余りにも
外交上の圧力が強く、難しい。16日以降への先送りは、中国側が非公式に求めていた事
により「言いなり、外圧に屈した。」との批判を浴びかねない。14日では、1日ずらし
の姑息な方便のそしりを免れない。13日が最も妥当との非常に大きな政治的妥協と考える。
  
  靖国参拝反対の主な理由は、次の理由による。A級戦犯の合祀(ごうし)している靖国
神社参拝は、憲法上、政教分離の恐れがあり、中国、韓国、その他の近隣諸国との友好関
係にひびが入り、歴史認識にかかわる問題が新たに生じ、反日感情を煽るというものであ
る。合祀とは、神や霊や魂を一つの神社に合せ祭る事をいう。戦争犯罪者をまつる靖国神
社参拝は、いたずらに日本の今までの歴史への反省を踏みにじるもので、外交上、国益を
損なうものである。

  靖国参拝を終戦記念日の8月15日すべきであるという理由は、次の理由による。先の
大戦で、日本は、わが国民を含め世界の多くの人々に対して、戦争犠牲者の方々すべてに
対し、深い反省とともに、謹んで哀悼の意を捧げたい。二度と日本が戦争への道を歩むこ
とがあってはならないと考え、あの困難な時代に祖国の未来を信じて戦陣に散っていった
方々の御霊(みたま)の前で、今日の日本の平和と繁栄が、その尊い犠牲の上に築かれて
いることに改めて思いをいたし、平和への誓いを新たにしするというものである。神道を
敬うのは日本の自然な姿であり、決して軍国主義ではない。靖国神社は、日本の精神文化
そのものであり、中国や韓国の批判は「内政干渉」であるとするものである。

  8月15日は、日本武道館で開かれる全国戦没者追悼式に、天皇、皇后両陛下がご出席
され、、戦争犠牲者に、小泉首相も参加され、哀悼の意を捧げる事になっている。小泉首
相の15日終戦記念日に靖国神社参拝するという持論と、内外の反対論を、秤にかけた、
すっきりしない政治的妥協であったが、過度に波風を立てない、混乱の度合いの少ない、
諸般の事情を総合的に勘案しての苦渋の政治的決断であったと考える。

   今後は、10月の中国、上海で行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、アジ
ア近隣諸国、特に中国や韓国に対して、十分な理解を求める外交が肝要である。特に中国や
韓国との要人との膝(ひざ)を交えての、アジア、太平洋地域の未来の平和と発展について
の意見を交換すべきである。 

   日本は、古来から山川草木に至るまで、神や仏が宿るものという東洋的宗教観、価値観が
あり、自然に対する畏敬の念を全国津々浦々にある神社、お寺を中心に祭り、伝統行事を通じ
て、精神文化を築いてきた。年間600万人が靖国神社に参拝している事は、動かしがたい事
実でもある。偏狭なナショナリズムに縛られたり、過度に自国を卑下するような事なく、自国
の精神文化に誇りを持つ事と、隣国をいたわり、配慮する事は、決して相矛盾するもので無い
と考える。靖国参拝の毎年起こる感情的な不毛な論争は、もう今年きりとし、靖国神社や千鳥
ケ淵戦没者墓苑に対する国民の思いを尊重しつつ、特殊法人化等を含めた、新たな国立墓苑構
想等をふまえ、諸外国が納得のいく、具体的な諸施策を講じる事が肝要である。世界唯一の平
和憲法を擁護し、戦争を排し平和を重んずる日本が、グローバルな視点から、隣国の主権と文
化を認めた上での相互理解と、心の不良債権の最終処理が緊急の課題となると考える。明日
56回目の終戦記念日を迎え、恒久の平和を願うものである。

                               平成13年8月14日(火)鈴木誠一拝