雑感88 <忘れられない贈り物>
                            
忘れられない贈り物。byスーザンバーレイ
 
 アナグマは、賢くて、いつも皆に頼りにされています。困っている友達は、
誰でもきっと助けてあげるのです。それに、大変年をとっていて、知らない
事は無いというぐらい、物知りでした。アナグマは、自分の年だと、死ぬのが、
そう遠くはないことも、知っていました。
 
 アナグマは、死ぬことを恐れてはいません。死んで体が無くなっても、
心は残ることを、知っていたからです。だから前のように、体がいうことを
きかなくなっても、くよくよしたりしませんでした。ただ後に残していく友達
のことが、余り悲しまないようにと、言っていました。
 
 ある日のこと、アナグマは、モグラとカエルのかけっこを見に、丘に登りま
した。その日は、特に年をとったように思いました。あと一度だけでも、皆と
一緒に走れたらと思いましたが、アナグマの足では、もう無理なことです。それ
でも友達の楽しそうな様子を、眺めているうちに、幸せな気持ちになりました。
 
 夜になって、アナグマは、家に帰ってきました。月におやすみを言って、カー
テンを閉めました。それから、地下の部屋に、ゆっくり降りていきました。そこ
では、暖炉が燃えています。夕ご飯を終えて、机に向かい、手紙を書きました。
揺り椅子を暖炉のそばに引き寄せて、静かに揺らしているうちに、アナグマは、
ぐっすり寝入ってしまいました。そして、不思議な、でも、すばらしい夢を見た
のです。
 
 驚いたことに、アナグマは、走っているのです。目の前には、どこまでも続く
長いトンネル。足はしっかりとして力強く、もう、杖もいりません。体はすばやく
動くし、トンネルを行けば行くほど、どんどん早く走れます。とうとう地面から
浮きあがったような気がしました。まるで、体が無くなってしまったようなのです。
アナグマは、すっかり自由になったと感じました。
 
 次の日の朝、アナグマの友達は、皆心配して集まりました。アナグマが、いつも
のように、おはようを言いに来てくれなかったからです。キツネが、悲しい知らせ
を伝えました。アナグマが死んでしまったのです。そして、アナグマの手紙を、皆
に読んでくれました。「長いトンネルの向こうに行くよ。さようなら。アナグマ
より。」森の皆は、アナグマを愛していましたから、悲しまない者は、いません
でした。中でも、モグラは、やりきれないほど、悲しくなりました。
 
 ベッドの中で、モグラは、アナグマのことばかり、考えていました。涙はあと
からあとから頬を伝い、毛布をぐっしょり、濡らします。その夜、雪が降りました。
冬が始まったのです。これからの寒い季節、皆を暖かく、守ってくれる家の上にも、
雪が降り積もりました。
 
 雪は、地上をすっかり覆いました。けれども、心の中の悲しみを、覆い隠しては
くれません。アナグマは、いつでも、そばにいてくれたのに。皆は、今どうして
いいか、途方に暮れていたのです。アナグマは、悲しまないようにといっていま
したが、それは、とてもむずかしいことでした。春が来て、外に出られるように
なると、皆互いに行き来しては、アナグマの想い出を語り合いました。
 
 モグラは、ハサミを使うのが上手です。一枚の紙から、手をつないだモグラが、
切り抜けます。切り抜き方は、アナグマが、教えてくれたものでした。初めのうち、
なかなか紙のモグラは、つながらず、ばらばらになってしまいました。でも、しま
いに、しっかりと手をつないだモグラの鎖が、切り抜けたのです。その時のうれし
さは、今でも、忘れられない想い出です。
 
 カエルは、スケートが得意です。スケートをはじめてアナグマに習った時のこと
を話しました。アナグマは、カエルが一人で立派に滑れるようになるまで、ずっと
やさしく、そばについてくれたのです。
 
 キツネは、子供の頃、アナグマに教えてもらうまで、ネクタイが結べなかった
ことを、思い出しました。「幅の広い方を左に、狭い方を右にして首にかけてごらん。
それから、広い方を右手でつかんで、狭い方のまわりにぐるりと、輪を作る。輪の
後ろから前に、広い方を通して、結び目を、きゅっとしめるんだ。」キツネは今、
どんな結び方だってできますし、自分で考え出した結び方もあるんです。そして
いつも、とても素敵に、ネクタイを結んでいます。
 
 ウサギの奥さんの料理上手は、村中に知れ渡っていました。でも、最初に料理を
教えてくれたのは、アナグマでした。ずっと前、アナグマは、ウサギにしょうが
パンの焼き方教えてくれたのです。ウサギの奥さんは、初めて料理を教えてもらっ
た時のことを思い出すと、今でも、焼きたてのしょうがパンの香りが、漂ってくる
ようだと言いました。
 
 皆誰にも、何かしら、アナグマの想い出がありました。アナグマは、一人一人に、
別れた後でも、宝物となるような、知恵や工夫を残してくれたのです。皆はそれで、
互いに助け合うこともできました。
 
 最後の雪が消えた頃、アナグマが残してくれたものの豊かさで、皆の悲しみも、
消えていました。アナグマの話が出るたびに、誰かがいつも、楽しい想い出を、
話すことができるように、なったのです。ある暖かい春の日に、モグラは、いつか
カエルとかけっこをした丘に登りました。モグラは、アナグマが残してくれた、
贈り物のお礼が言いたくなりました。 「ありがとう、アナグマさん。」モグラは、
なんだか、そばでアナグマが、聞いていてくれるような気がしました。そうですね。
きっとアナグマに、聞こえたに違いありませんよね。

傷心の娘ひろみに彼女の友達から、すばらしい絵本をいただきました。心より感謝致します。
                               平成15年5月5日(月) 鈴木誠一拝