雑感84 <心に響く名文の条件>
 
 一読して、なるほどとうなずく。本当にそうだなあと自分の体験と
照らし合わせて、納得する。名文を名文たらしめている条件、要素と
は、何であろうか。

 一つは、その内容が時代を超えた普遍性を持っている事ではないだ
ろうか。時代や時の流れ、勢いは、人間を取り巻いている表層物を刻
々と変えていくが、その流れでは流しきれない、洗いきれない人間の
深層心理の本質的なものに触れた時、人は共感をすると考える。聖書
仏典哲学書に共感する事が多いのが、これを実証している。数千年
前の人間の言行を透徹した真理が、時空を超えて現代を生きる我々の
心に迫ってくる。

 もう一つは、名文の条件は、平易で分かり易さであると考える。まさ
に、Simple is best.である。名文は、読み手にその内容を正しく伝え
る為には、分かり易さが欠かせない条件となる。この普遍性と分かり易
さがが、名文を名文たらしめている条件と考える。
 
 「心と心を触れ合わせるには、言葉だけに、頼る事はできぬ。言葉
は、不完全なものである。二つの心の緊張が高まって、その間にそこ
ばくのへだたりが感ぜられる場合には、特にこの不完全さが目立って
くる。」(和辻哲郎「心と言葉」)

 相手に言った言葉が、自分の思い通りに伝わらなかったり、逆に受け
取られたりする事が多々ある。又、逆に、言葉は不完全でも、信じられ
ないほど、自分の気持ちは、相手に伝わる事もある。では、どのような
場合に、言葉は、人の心の琴線に触れるのであろうか。心が通じるのは、
心の論理が通っているからである。頭の論理がいかに正確に言葉の内に
表現されていても、心の論理が通っていなければ、人は、承服、納得し
ないと考える。頭の論理だけでは、相手の心に響かない。正義という権
力を笠に着て、相手を説得しても、心に響かない。ただただ相手に対す
る愛をもって、心の論理をもって心を通わせるように努力すべきである。

 平易で分かり易く、普遍的で相手の心の襞に触れてるような名文を常
に心がけたい。古典であれ、専門書であれ、エッセイであれ、小説であ
れ、何度読んでも飽きる事のない名文を多く読み、わが身に少しでも身
に付けたいものである。

               平成15年2月11日(水)鈴木誠一拝