雑感86<イラク戦争の正体とアメリカの大義、正当性>


 戦争が始まってしまった。2003年3月20日(木)日本時間午前
10時32分イラク戦争の戦端が切って落とされた。アメリカはイギリス
等45カ国以上の有志連合国と共に、イラクの武装解除と国民解放に向け
た軍事作戦を開始した。米軍は、フセイン大統領らイラク政府幹部を狙っ
た限定攻撃の奇襲作戦で幕を開けた。フセイン大統領殺害を狙った限定攻
撃の巡航ミサイル発射で始まった。巡航ミサイル、トマホーク、ステルス
戦闘機で、フセイン大統領等幹部をピンポイントで狙った。トマホークと
は、もともとインディアンの使っていた投げて相手を倒す斧が語源である。
照準は、サダムフセイン大統領その人だった。米中央情報局(CIA)が、
この日に得たフセイン氏の所在情報による先制攻撃だった。目を引く物理
的破壊力だけにとどまらず、心理面の操作をより重視する米軍の戦略が見
えた。心理的な動揺を重視する戦略である。フセイン、イラク大統領は、
祖国防衛の為の徹底抗戦を宣言した。開戦によって事態は決定的局面に突
入した。

 サダムフセインは、1969年北イラクのクルド人組織間の抗争を利用
して、戦車で進攻し、31歳で、党ナンバー2の革命指導評議会副議長に
なった。公安機関の責任者となって政敵、国内批判分子の追放を繰り返し、
地位を固めた。軍歴を持たず、政党と公安機関を自分の権力基盤としてい
る。 バース党は「アラブ統一」というイデオロギーを掲げている。サダム
フセインにとっての軍は、自分の政治目的を達成する為の道具に過ぎない。
軍人出身であれば、軍の損害を最少に抑えて、政治的目標を達成する方法
を採らなければ、軍の支持を失う。イラクがこの四半世紀の間、繰り返し
戦争を仕掛けてきたのは、フセインが軍に基盤を置かない政党人だった事
が原因である。サダムとはアラビア語で衝突する者を意味する。サダムフ
セインは、一族独裁で、24年君臨している。幼少時代の貧しさの体験が、
サダムフセインのゆがんだ人格形成に多くの影響を与えた。サダムフセイ
ンは、10歳の時、ハイララを通じ、熱心なバース党活動家だったバクル
に出会い、1996年、バース党に入党し、権力の階段を駆け上がった。
ハイララの娘サジダは、後にサダムフセインの第一夫人となる。サダムフ
セインが治安、諜報機関を創設し、バース党独裁体制の基礎を確立した。
長男ウダイ、二男クサイへの権力集中をし執拗に推進してきた。数々の暗
殺、陰謀を乗り切ってきたサダムフセインは、今度こそ、絶体絶命の危機
に立たされた。

 ドイツのシュレーダー首相は、「誤った決定が行われた。平和への機会
ではなく戦争の論理がまかり通った。」と述べ、米英主導の戦争を批判し
た。ロシアのプーチン大統領は「無条件に、政治的、合法的な方法で問題
が解決される事を望んでいる。国連決議を得ないまま武力解決がはかられ
た事は遺憾である。」とロシアの立場を明確にした。アナン国連事務総長
は、「安保理の合意なき武力行使は正当性を疑われる。」と述べた。大量
破壊兵器の完全武装解除は、湾岸戦争の停戦条件として安保理が命じた必
須の責務である。12年間に計17の決議が重ねられたにもかかわらず、
イラクは誠意をもって対応してこなかった。見切り開戦が国際社会に重大
な疑問と懸念を残し、国連の権威も失墜させた。大量破壊兵器が国外流出
し、テロ組織の手にわたれば、世界にとっても深刻な脅威となる。シラク、
シュレイダー、プーチン等の必死の説得にも耳をかさず、アメリカは、国
連安全保障理事会の新決議採択が得られないまま、イラク攻撃に踏み切っ
た。フセイン政権が徹底抗戦すれば、世界各地で支援組織のテロが起きる
恐れもある。イラク戦争は、国連の機能や世界秩序のあり方にも深刻な疑
問を投げかた。

 イラク戦争は、自由をもたらす戦争と言っているが何かがおかしい。
イラクを武装解除し、国民を解放し、世界を重大な危険から守るという。
飛び抜けて軍事力の強いアメリカが、はるばる遠方まで押しかけ、力でね
じ伏せる。国連を分裂させ、国連の枠を外れて先制攻撃をしかけた。イラ
クからの生物、化学兵器による攻撃に備えた臨戦態勢に入った。アメリカ
の真の目的は、石油権益と中東の地の政治地図の塗り替えのように思えて
ならない。民主主義というオブラートでつつんだ石油利権奪取の野心が見
え隠れする。アラブ、イスラム世界には、米英を中世の十字軍の再生と見
なす空気がある。神の意志、啓示を体現しているというブッシュの言動、
確信が、十字軍的使命を担ったキリスト教原理主義者ブッシュを見るよう
で、恐ろしい。キリスト教原理主義者は、ブッシュの共和党の最も強い支
持基盤でもある。攻められるイラクは、アラブ、イスラムへの攻撃と喧伝
する。アラブ、イスラム世界との対立にならないように努力すべきであ
る。イラク戦争が、アラブ、イスラム世界全体に仕掛けた戦争として、
ジハード、聖戦を呼びかけ、立ち上がらせる事になる。アメリカは、イラ
クに大量破壊兵器、核兵器の武装解除を求めているが、イスラエルの核兵
器保持については黙認している。アメリカのイラク戦争の大義、正当性の
矛盾をここに見る。アメリカのこの矛盾したダブルスタンダードをどう説
明するのか。アメリカは、何としてもイスラエル対イラクの構図は避けよ
うとする。パレスチナ問題を避けて、中東問題の真の解決は無い。ブッシ
ュは、アラブ文化、伝統を無視するかのように中東の民主化を軽々しく語
る。キリスト教、イスラム教の文明、宗教の衝突を一層深くしている。
ブッシュよ。イスラムの文明に真に敬意を払え。

 アメリカのイラク攻撃の真のの狙いが、脅威に対する先制行動を認めた
「ブッシュドクトリン」の発動にあるとすれば、国際ルールを一方的に
踏みにじる予防戦争ともいうべき横暴は、無視できない。「先制行動ドク
トリン」を掲げる米政権の新保守主義者(ネオコンサーバティブ)の強硬
派は、国際協調のルールを尽くすよりも、初めからフセイン政権転覆をめ
ざす目的があったのではないか。このような暴挙が認められるならば、
国連を中心とした集団安全保障の理念は根底から覆される。かえって紛争、
テロの多発を招く恐れがでる。イラクに対するアメリカの姿勢に、国際協
調主義と単独行動主義の「二つの顔」が見えたことが、仏独などの反発を
招いた。安保理は迷走に陥った。武力行使に代わる有効な対案を出せずに、
拒否権行使にこだわった仏露にも責任の一端は免れない。「国際社会対イ
ラク」であったはずの構図は、「米英対仏独露」の政治的対立にすりかわ
った。世界各地で反戦、反米デモが起き、国連が機能喪失状態に陥った。
ブッシュ大統領は「市民の犠牲を最小限にとどめ、イラク国民の尊厳と宗
教的信念を守る。」と公言した。大量破壊兵器が完全に廃棄され、国民に
真の自由と平和が達成されるならば、歓迎できない理由はない。しかし、
国連の秩序と国際協調のルールに基づいて遂行されなければ意味が無い。
国連本来の機能を回復できなければ、イラクを含むアラブ諸国の市民感
情もおさまらない。米欧関係の修復も必要となる。

 アメリカのイラク戦争は、石油戦争と言われる。ブッシュ、チェイニー、
ライスが、石油、武器の利権が結びついている事は、否めない。アメリカは、
イラク攻撃を、あたかもハイテク新兵器の見本市、実験場としている。国際
政治は、現実的で、どろどろとしたものとは思うが、戦争は実に残酷、悲惨
であり、アメリカの軍事的圧力しか、本当に解決の道はないのであろうか。
戦争の構図が一変して、戦火が中東全域に拡大する懸念も出てくる。 アメ
リカのイラク戦争は、ともすれば第三次世界大戦に突入しかねない危険な
バランスの上に立っている事を、深く認識しなければならない。

 小泉純一郎首相は、国連中心外交と日米同盟を両立させる方向に立って、
米英の武力行使を支持する姿勢を明確にした。アメリカを支持する事が日
本の国家利益にかなうと、政府の立場を説明した。アメリカは、かけがえ
のない同盟国であり、日本の平和と安定を守る為に、抑止力を提供してい
ると強調した。大量破壊兵器の脅威はアジア地域でも無縁ではなく、北朝
鮮の核、ミサイルに備える観点からも、米支持が必要と強調した。イラク
攻撃に乗じて北朝鮮が弾道ミサイルの発射を再開する可能性も高まり、北
朝鮮への警戒、監視を強化すべきとしている。北朝鮮の脅威を念頭に、日
米同盟関係を重視する観点から支持を決断した。日本国内でテロが発生し
たり、日本人を対象としたテロの可能性があり得るとの認識を示した。日
本も不測の事態に備える必要がある。アメリカが国際社会の大義に従って
大きな犠牲を払おうとしている今、アメリカを可能な限り支援する事が、
日本の責務と強調した。アメリカが、武力行使に至ったことはやむを得な
いとし、支持すると表明した。

 北朝鮮に軍事的圧力をかけないで北朝鮮が変化する事を期待できるかと
いう意見がある。北朝鮮に変化を期待し、日本が何も手を打たないことは、
北朝鮮の横暴を許すと同じであるという考え方である。アメリカにもっと
軍事的圧力をかけて、抑止力を高めてほしいという考えである。確かに、
北朝鮮の「瀬戸際外交」は、「挑発外交」である。北朝鮮は「戦争が起これ
ばソウルは火の海になる。」と脅した。実際、38度線の北側には1000
門以上の長射程の火砲が配備されている。日本もノドンミサイルの射程内に
ある。武力衝突が拡大すれば、朝鮮半島と日本が、壊滅的な打撃を受ける事
は明白である。平和主義を気取って、口先で反対を言うつもりはないが、せ
っかく歴史的快挙のピョンヤン宣言をなぜ真摯に守らせる粘り強い外交的努
力を重ねないのか。北朝鮮よ。よく考えよ。北朝鮮よ。危険な軍事的挑発は
やめよ。日本政府は、日米韓、中露が協力し、あらゆるルートを通じて北朝
鮮との接触を保つべきである。特に北朝鮮と関係が深い中露には、働きかけ
を強めるべきである。

 イラクは、追い詰められて、生物化学兵器攻撃に走る可能性がでてきた。
戦争で傷つくのは、フセインではなく、罪のない一般市民だけである。首都
バグダッドを舞台とした市街戦に陥れば、誤爆により、計り知れない犠牲を
生みかねない。日本は、イラク国民の為に何ができるのであろうか。人道支
援、難民支援、復興支援を真剣に検討しなければならない。戦争の早期終結
を求める一方、戦災の被害を受けたイラク国民の為に、暖かい援助の手を差
し伸べる必要がある。被災したイラク難民や傷病者らに対して、食糧や医薬
品を送るなどの支援策を実施すべきである。日本は、緊急人道支援の実施だ
けでなく、戦後の復興に関して尽力すべきである。戦争終結後には、改めて
公正な国連査察団の手で、大量破壊兵器の廃棄と検証を行う必要もある。
破壊からの復興と民生支援、法と秩序の回復など難しい課題も山積している。

 第二次世界大戦の遺物とも言うべき、49の戦勝国により組織される国連は、
5大国の安保理での拒否権で、重要案件は、ほとんど成立せず、機能不全に陥
っている。世界的悲劇を回避する為、国連の合意のない戦争は、ただただ地上
で、人が殺され、街が破壊されるだけである。たった一国の意思で、世界の運
命が決められる事が、本当に正しい事か。早急に新しい国連を構築すべきであ
る。日本は、アメリカのご主人に仕える忠犬ポチといわれている。日本に、ア
メリカの軍事的抑止力に頼った政治的苦渋の選択は、未来永劫に続くのか。選
択肢が無いという事は、いついかなる時も、どんな状況でも、黒を白という世
界で、常にアメリカの言いなりになるという事である。アメリカだけの価値観
をいつも甘受せねばならないという事である。民主主義とは、本来自国の人が、
内から自主的に作るもので、アメリカが、アメリカ的民主主義をイラクに、そ
して日本にまでもに押し付ける事は、それ自体が矛盾であると考える。

 イラク戦争は、私には、悪と悪の戦いにしか見えない。いかなる戦争も、断
じて許されない。アメリカの価値観を安易に容認すれば、力の強い者が必ず正
しくなる。アメリカの正義が、いつの時代も力の背景により正当化される。イ
ラク国民には、何の罪もない。被害を被るのは、常に民間人である。悲惨な償
いきれない代償の大きさを考えるべきである。戦争からは、決して平和は生ま
れない。暴発の結末は、殺戮、破壊、破滅、混迷、悲嘆でしかない。戦争とは、
大義、合法を装った人類の最も悲しむべき犯罪である事を肝に銘ずべきである。
広島、長崎の原爆を体験した日本人こそ、世界の平和の為に声を大きくして、
世界に呼びかけなければななない。命の尊厳こそ、最も大事な事であると。
世界中の皆様、声を大きくして叫ぼう。
No War. No War. No War.
                平成15年3月20日(木)鈴木誠一拝