雑感77 <総合デフレ対策、合成の誤謬。>

  平成14年10月31日(木)、金融、産業の再生、不良
債権処理加速策を盛り込んだ総合デフレ対策を発表した。
ハードランディングを目指した竹中原案は、次の3本柱が
骨子である。
1、主要大手銀行の資産査定の厳格化(DCF採用)
2、自己資本の強化(アメリカ流税効果会計採用)
3、ガバナンス(企業統治)の強化

  平成16年までに、主要大手銀行の不良債権比率を半分
に圧縮する目標を掲げた。銀行に対する不良債権の査定、
自己資本の算定(8%)を厳しくし、過小になった銀行に、
公的資金を注入し、一時国有化する。小泉首相を本部長と
する産業の再生、雇用対策戦略本部を設置する。セーフテ
ィーネット(安全網)の拡充により、失業者を救済する。
整理回収機構(RCC)の他に、産業の再生、雇用対策戦略
本部を設置した事は、今回の目玉である。産業再生機構で、
誰がどのような基準で判断、選別、仕分けをするのか。その
人選は。?整理回収機構(RCC)の中身を公開して、オーク
ション形式で企業再生の新たな市場を作ってはどうか。

  不当な貸しはがし、貸し渋り監視のモニタリング制度、ホ
ットラインの創設は、形式だけで、ほとんど機能しないと
思う。中小企業の経営者は、モニタリング、ホットラインに
関わっている余裕などないはずである。公的資金をつぎ込ん
だ場合の銀行の経営者の責任が明確化できなかった。DCF
(Discount Cash Flow)の採用で、正常先の新勘定、不良
債権の再生勘定の分離を義務ずけられた。大口債務者に対し
て、銀行間の債務者区分を統一した。

 まずこのデフレ、平成大不況が、いつ頃から始まったかを
考える。橋本元首相が、消費税を3%から5%に引き上げた
時に始まると考える。上向きかけた景気の腰を折った。財政
再建を急いだばかりの大失政が、このデフレ、平成大不況を
もたらした。森政権、小渕政権下では、景気浮揚策を断続的
に試みるが、景気を軌道に乗せるまでにはいかなかった。
「改革なくして成長なし」で颯爽と登場した小泉首相は、
構造改革を推進したが、掛け声だけで、一向に構造改革が進
まず、今未曾有の大倒産、大失業時代を迎えている。

 今、ほとんどすべてといっていい企業が、借金返済してい
る国は、異常という以外にない。今、GDP(国内総生産)の
7%は借金である。アメリカの恐慌時は30%であったという。
日本は、公的部分が20%もある。20対80の日本経済で、
20の公的部分が80の民の産業にぶら下がってきたが、80
の民の産業が支えきれなくなってきた。最大のネックとなって
いる岩盤が、78兆円にものぼる不良債権である。しかし日本
には、1400兆円もの個人の金融資産があり、世界最大の債
権国でもある。どうしてこれを政治手法で生かしきれないのか。

  デフレの核心は、企業の過剰債務にある。企業の過剰債務の主
原因は、土地担保制をとる日本の銀行施策が、資産デフレで、
担保余力、担保力不足による締め付けにより、血液であるお金
が廻らなくなり、企業の活性力を奪った。企業は、生殺与奪権
を銀行に握られた。デフレ(持続的物価下落)とデッド(企業
の過剰債務、不良債権)の悪循環こそが、経済再生を阻んでい
ると理解すべきである。デフレとデッドのいたちごっこが続く
限り、破れバケツに水を注ぐようなものである。危機に直面し
ての小泉首相の不作為の罪を厳しく問われる。不良債権処理の
ため韓国がつぎ込んだ公的資金は3年で国内総生産(GDP)
の30%といわれている。痛みと代償は大きかったが、経済も
株式市場も現在、金融危機の水準を大きく上回っている。  
ハードランディング路線でマレーシアも不良債権処理を終え、
経済を完全に立て直した。日本経済は、デフレスパイラルと金
融不安が連鎖する戦後最悪の経済危機に直面している。放置し
ておけば、日本発の世界恐慌を招きかねない。

 不良債権処理加速策とは、金融不安の穴を完全にふさぐ政策
である。不良債権処理加速策とは、とりもなおさず過剰債務企
業整理、淘汰を意味する。不良債権を一時的に一掃しても資産
デフレが生み出す新規の不良債権を作り続ける。整理回収機構
(RCC)は、強制隔離病棟のようなものである。

  日銀は、銀行保有株の買取りという禁じ手にでた。又、政
策を変更して、一層の金融緩和に踏み切った。
1、日銀当座預金残高目標値10兆〜15兆円から、15兆〜
  20兆円へ引き上げる。
2、長期国債買い入れを月額1兆円から1.2兆円に増加する。
3、手形買い入れ期間を6ヶ月以内から1年以内に延長する。
国債だけでなく、株価指数連動型上場投資信託(ETF)や不動産
投資信託(REIT)を日銀が購入してはいかがか。そうなれば市場
に供給される資金が一段と潤沢になりインフレ期待感が生まれる
と考える。

  デフレ下では現金を持つ事が一番安心で、現預貯金の保有が増
大し、投資、消費に廻らない。需要不足デフレが続くと過去に背
負った債務の実質負担が増大する。資産デフレにより、企業の資
産価値が下がり、銀行は引当金の増額を迫られる。銀行は通常な
らざる負担を強いられて、普通の不況なら充分耐えられる企業ま
で、不良債権と化している。この異常な状態で、銀行、企業を選
別し、市場から退場を迫る事がどうして長期的に日本経済を強く
する事なのか。本来なら日本経済を支える実力を持つ企業を無駄
死にさせる政策で、なぜ日本経済を救えるのか。不良債権処理加
速策は、産業構造転換の大チャンスではあるが、企業淘汰する事
事態が目的かのような政策に見える。今一番不況感が強いのは経
営者自身である。

 デフレの主因は需要不足である。需要デフレ脱却こそ急務であ
る。まず官が監視しているからうまくいくという考え方を改めて
ほしい。今や供給がそれに等しい需要を作り出すというセイの法
則は、通用せず、需要が供給(経済水準)を生み出すというケイ
ンズの法則(有効需要の原理)を真剣に受け止めなければならな
い。その意味でも平成不況は、需要デフレであり、資産デフレが
深刻である。その意味で民主導型需要創造、民力再興が大命題で
ある。空虚な改革のスローガン連呼、喧伝はもうこてまでとし、
意味のある需要デフレを喚起する財政出動が望まれる。

 竹中相は、金融相としては、政策を示したが、財務相としては、
何ら画期的な政策を示しておらず、失格である。平成14年の経
済成長は-1.1%だが、経済成長、実体経済を下支えする事が、
すべての経済政策の最優先課題である事を忘れてはならない。
360万人にも膨れ上がった失業者をこの穴だらけのセーフティ
ーネット(安全網)で救えるというのか。生きている企業を、い
かにしたら不良債権を正常債権にしていくかが、国、銀行の本来
の役目ではないのか。竹中さんあなたはいったい日本をむいてい
るのか。アメリカをむいているのか。?

 BIS規制は、アングロサクソン金融勢力により、日本銀行の封じ
込め(Containment)を仕組んだ戦略と考える。銀行は余裕がなく
なり、融資を絞り、企業の切り捨てが激しくなる。今の不良債権
の70%は、小泉政権になって発生したという事実を深く認識す
べきである。経済失政のつけを不良債権処理加速策におしつける
のではなく、財政、税制を総動員した資産デフレ解消策、経済活
性化策を、より詳細に具体的に国民にすべきである。資産デフレ
解消策と不良債権処理策は、車の両輪である。これでは、資産デ
フレ解消策が、片手落ちで片肺走行で、危険極まりない。30兆
円枠のこだわりを捨て、民需創造こそ、経済活性化策の王道であ
る事を肝に命ずべきである。小泉さん、竹中さん、あなた達は、
日本経済を支えてきた中小企業を切り捨てて、アメリカ型の一強
百弱の弱肉強食の経済にするつもりか。不良債権処理加速策は、
必要以上の倒産、失業を招き、新たな不良債権を増やす。中小企
業に対する無担保融資制度の創設の具体策、詳細が見えない。

 70歳以上の金融市場が全預貯金の53%を占めるという。貯
蓄から消費への流れを作る為に、贈与税、相続税を改正して税に
よるインセンティブを与えるべきである。例えば子供、孫に対し
て、住宅リフォームに支払われる贈与税を3000万円まで無税
にするとかいい知恵をもっとふり絞るべきである。公共事業はす
べて悪とした一部マスコミの偏った報道は許し難いが、公共事業
が生み出す雇用の割合は、沖縄、高知、島根、北海道の4県で、
20%を越える。東京、神奈川、愛知、静岡では7%である。不
況の時ほど、地方の社会資本を整備すべきである。地方では、公
共事業は死活問題である。真水で5兆円程のの補正予算を組み、
今回は特別に国ではなく、地方の経済事情に詳しい都道府県の首長
に直接予算の執行権を委ね、与えてはどうか。今や公共事業の経済
的意味合いは日本経済の生産性アップではなく、地方の雇用創出で
ある事実を銘記すべきである。

 私は、今、日本の最優先課題は資産デフレ脱却と考えている。
土地は11年連続下落である。ゼネコン、不動産、ゴルフ場、流
通業界は、価値が暴落した不動産を持ち続け、不振にあえいでい
る。債務返済で資産売却を迫られれば、赤字計上で債務超過は必
須である。ゼネコン、不動産、ゴルフ場、流通業への貸し出しは、
全金融の75%に上る。この業界を、いかに整理、再編するかが
問題である。国はそのあるべき姿、具体策を明示すべきである。
抽象的スローガンだけで、内容を具体的には話さない、或いは話
せない小泉首相の説明責任は、厳しく問われるものである。更正
法、再生法は健全な企業の活力までもむしばむ悪法である。破綻
企業は90%以上の債権をカットされ、身軽になって戦線に又復
帰する。まさにゾンビ経済そのものである。引っ掛かった企業は
たまったもではない。今、資産デフレ経済からの脱却、克服こそ
が今日本の最重要課題では無いのか。資産デフレの克服の為の証
券、不動産活性化の為の具体的方策が全くない。都市再生プロジ
ェクトの具体的方策が全くない。期間を限定して、土地の流動化
策として、不動産取得税廃止とか思い切った政策を打ち出せない
のか。 
 
 今回の総合デフレ対策は、金融不安を起こさない為の銀行の監
視政策に留まっている。具体的資産デフレ克服策は皆無に近い。
日本銀行は否定的だが、3%位のインフレターゲティング(物価
安定目標)は2年くらいの期間限定で議論の余地が多いにあると
考える。インフレターゲティングで国が、良性インフレ実現の強
い意志を表示し、インフレ期待感を醸成すべきと考える。インフ
レ予想が投資と消費を刺激する。不動産、株式に対する2年くら
いの期間限定で、あらゆる税の停止をする。デフレは悪であり、
マイルドなインフレが善である事を周知する。不良債権処理を急
げば、アメリカのハゲタカファンド(倒産企業の債権を底値で買
取り、回収して利益をあげる投資会社)のえじきに成る事は、火
を見るより明らかである。ハゲタカファンドにとってデフレ高進
は、絶好のビジネスチャンスである。デフレがインフレに転じれ
ば、不良債権処理は縮小する。不動産市場、株式市場を呼び込む
事が肝要である。国内外の投資家の資金を景気浮揚に廻す。個人
資産の1400兆円の40%を戦略的活用ができないものか。
間接金融でなく直接金融をいかに引き出すか。土地の収益性を高
める施策を考えるべきである。

   経済のすべての領域(1、個人消費、2、設備投資、3、住宅
投資、4、公共投資、5、輸出、6、輸入)で底上げする経済施
策が急務である。かつて成功を実現した産業、行政、メディア等
複合構造が余りにも強固に確立した為に、日本人は、システムだ
けでなく、思考、発想そのものまでも固定化されてしまった。株
価が1000円下がれば、資産が、日本の富が30兆円吹っ飛ぶ。
不良債権処理加速策を進めた帰結は、スルム化した少数の企業と
失業者の増大とハゲタカファンドと日本経済の縮小が残るだけで
ある。実態経済の立ち直り、再生が無い限り、新しい不良債権は
増え続ける。これを合成の誤謬(ごびゅう)と言わずして何と言
おうか。今や、資産デフレにより日本の富、1158兆円が失わ
れた。今や資産は死産である。いかに富を創造するかに知恵を絞
るべきである。いくら日本の富を失えば目がさめるのか。
「資産価格の下落が、人々の富を減らし、消費意欲を減らし、
新たな投資へのインセンティブを減らす。」(ジェームズトービン)

       平成14年11月4日(月)      鈴木誠一拝